サッカーの自主練習を効率的に行うための5つのポイント
社会人プレーヤーは、時間、場所、人数など、限られた環境の中で練習していかなければなりません。その中で上達するには、できる限り効率の良い練習をする必要があります。
「効率の良い練習」というのは、「楽して上手くなる方法」ではなく、練習した分だけ上達できる「正しい努力」をするということです。
上達するには、練習時間も大切ですが、努力の方向性も大切です。世の中には、練習時間は長いのに全然上達していない、という人がいます。高校時代の私がまさにそうでした。朝は誰よりも早くグランドへ行き、夜はみんなが帰った後も練習しました。ところが、一向に上手くなりませんでした。
今考えると、完全に努力の方向性が間違っていました。それでいて、「自分は誰よりも努力している」と勘違いしていたのですから、タチが悪いことこの上なしです(笑)
効率の良い練習ができるかどうかは、練習を始める前の計画段階で決まります。今回は、効率の良い練習をするために、どんな風に練習プランを考えるのかをお伝えします。
1.優先順位を決める
効率の良い練習をするためには、まずは練習の優先順位を決めましょう。サッカーには色々な技術がありますが、その中でも優先度の高いものに時間をかけるようにします。
優先度の高いものは、その人のレベルによって変わります。例えば、初心者なら、試合で多く使う基本技術が優先度の高い練習になります。基本的なボールコントロールができなければ試合にならないからです。特にトラップ、インサイドキック、ドリブル練習は必須です。
初心者の中には筋トレや走り込みをする人もいますが、それよりも基本的なボールコントロールの習得に時間をかけた方がいいでしょう。
どうしてもフィジカル系のトレーニングを入れたい人は、時間配分を調整しましょう。
例えば、1日1時間練習できるのであれば、40分を技術練習、20分をフィジカルトレーニングという感じです。
サッカーには色々な練習がありますが、あれもこれもやろうとすれば、いくら時間があっても足りません。優先順位の高いものに時間をかけ、低いものは思い切って切り捨てることが、練習効率を上げる第一歩です。
2.練習時間は分散させる
練習の優先順位を決めたら、次は練習時間を決めましょう。
ほとんどの社会人は、週単位で動いているので、週単位で何曜日にどれだけ練習するのかを考えましょう。
このとき、「週末にまとめて5時間」といった固め打ち方式はおすすめできません。5時間練習するなら、「平日に毎日30分ずつ、休みの土日に2時間半」という風に小分けにした方が練習効率が上がります。
鹿屋体育大学教授の児玉光雄さんは、練習時間についてこう述べています。
「アメリカスポーツ医学会」のデータでも、筋力トレーニングの効果が残存するのはせいぜい48時間であり、それ以上間隔をあけると、練習の成果が薄れるという結果があります。
これは、筋力トレーニング以外でも適用できそうです。同じ練習時間でも、固めて練習するのではなく、分散させて小刻みに練習する方が効果的なのです。たとえば、1週間練習すると決めた場合、5時間の練習を2日に分けるよりも、2時間の練習を5日に分けるほうが効果的なのです。
「上達の技術 一直線にうまくなるための極意 児玉光雄著」より
なぜ、小分けにした方がいいのかというと、1つには集中力の問題があります。長時間練習しても、集中している時間はほんの一部です。集中力を欠いた練習は百害あって一利なし。悪い癖がついてしまうなど、逆効果となる危険性もあります。
もう1つは、練習の間隔の問題です。前述のように筋トレは48時間以上間隔を空けると効果が薄くなります。これは、「超回復」と呼ばれる現象が関係しているのですが、筋トレだけでなく、どんなトレーニングにも最適な間隔があります。
反復練習は、同じ動作を繰り返し、脳に信号を送ることで技術を身につけていきます。この脳に信号を送る間隔は、週に1回よりも毎日の方が効果が高いのです。
平日は忙しい人が多いと思いますが、特に技術を身につける練習の場合は、毎日少しずつでも練習時間を確保することが大切です。
3.「休みなく練習する」ではダメ
反復練習は、同じ動作を繰り返し、技術を体に覚えさせる練習法です。
繰り返す回数が多いほど良いと思われがちですが、実はそうとは限りません。休憩を挟みながら練習した方が、成績が良くなるというデータもあります。(これを「分散練習」といいます)
技術を身につけるのにカギとなるのは成功体験です。脳は、上手くいった信号だけを使って、技術の神経回路を作るからです。
つまり、技術習得には、成功体験を脳に焼き付けることが大切なのです。
上手くいったときに、すぐに次の練習に取りかかるのではなく、しばらく上手くいった余韻に浸り、良いイメージを残しながら行った方が効果的な練習ができるのです。
ただし、練習を始めたばかりのときは、上手くいくことは少ないでしょうから、数をこなす集中練習の方が効率が良くなります。レベルに応じて、練習密度を変えることで、効率的な練習になります。
4.行き詰ったら休む
練習しても練習しても思うようにいかない。そんなときは、少しの間その練習をやめてみるのも一つの手です。
脳は、起きている間に得た情報を、寝ている間に整理すると言われています。学生時代、徹夜で勉強してテストを受けた人よりも、しっかり睡眠をとった人の方が成績が良かった、ということがありますが、これは脳の情報整理の働きによるものです。
同じようにサッカーでも、練習しているときは、脳がその技術に関する情報を一生懸命集めています。そして、休んで情報が整理されることで、「昨日はできなかったのに、なぜか今日はできてしまった」ということが起こったりするのです。(これを「レミニセンス効果」といいます)
東京大学大学院教授の深代千之さんは、こう述べています。
難しい数学の問題を夜遅くまで長時間考え続けた人よりも、翌朝に再挑戦した人の方が回答率が断然高かったという実験結果や、上手に弾けなかったピアノが翌日に弾けるようになっていたということもあるのです。
科学的にはっきり解明されたわけではありませんが、スポーツ心理学の分野では、それまで練習して得た情報が整理され、ムダな部分が取りのぞかれていくのではないかと考えられています。
「大人の「運動音痴」がみるみるよくなる本 深代千之著」より
ただし、これは一生懸命練習したからこそ起こる現象だそうです。前述の睡眠をとった人の方がテストの成績が良いのは、それまでにその人が勉強を積み重ねてきたからです。勉強せずに寝てばかりいて、成績が良くなるなんて都合のいいことはありません。
5.イメージトレーニング
体を動かすことだけが練習ではありません。良いイメージを脳に焼き付けることも効果的なトレーニングです。
頭の中にあるイメージというのは、上達に大きな影響を及ぼします。良いイメージがたくさんあれば、それに引っ張り上げられて上達が加速します。逆に悪いイメージばかりだと、それに引きずられて技術が低下してしまうこともあります。
良いイメージを焼き付けるには、自分自身の上手くいったプレーを思い出してもいいですし、プロの試合やDVD、動画などでレベルの高いプレーを見ることも有効です。
昔から「サッカーが上手くなるには、いい試合をたくさん見ることが大事」と言われています。いい試合を見ることで、効果的な技術の使い方、動き方、状況判断、駆け引き、メンタルなど、多くの学びがあるからです。
試合観戦はテレビでもいいですが、たまにはスタジアムに足を運び、直に一流のプレーを見ると、より良い刺激を受けられるでしょう。
逆に下手な動作を見ると、悪いイメージが付いてしまうので、注意が必要です。野球のイチロー選手は、「自分のバッティングに影響するため、下手な人のバッティングは見たくない」と言っています。さすがのこだわりですね。
練習場や試合会場で、自分より下手なプレーを見て笑っている暇があれば、目をつぶって自分の良いプレーをイメージしていた方がよっぽど有意義な時間になります。
今回は、自主練習を効率よくするためのポイントについて書いてみました。
サッカーを始めたばかりの頃は、ボールを触っているだけで上手くなれますが、中級者レベルになると、行き当たりばったりで練習しても上手くはなれません。何を優先的に練習するのか、どれくらいの時間をかけるのか、練習のプランニングで上達できるかどうかが決まってきます。
また、根性で練習するのではなく、脳の機能を活用して、上手く休みを挟みながら練習を進めていくことも大切です。
社会人であれば、仕事のスケジューリングなどで、実際にアクションを起こす前の準備にも慣れていると思います。スマートに仕事を進めるように、サッカーの練習もスマートに進めていきましょう。
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